大変お待たせしております。/その3 [季節ネタ]
通販の発送処理が滞っております。理由は相変わらず健康上の問題ですが、ちょっと上向いてきたのでちょっとは作業が進められると思います。
お詫びというにはアレですが、ちょっとしたSSSを思いつきましたのでどうぞです。
ご感想などはお気軽にコメント欄からどうぞ。
花言葉は。
「見て、綾子」
一歩先を歩いていた綾子の袖を、麻衣が掴んだ。
「なあに?」
「ほらあの花!」
通路向こうのガラスのウィンドウの先はフラワーショップで、麻衣の指先は、深紅を通り越して黒赤色とでも言える色をさしていた。
無数の花びらはまるでとげのように鋭く、その色のせいで、余計に際立って目立つ。
「ああ、ダリアね。目立つわね」
「あれ、ダリアなの?………なんかダリアって、もっとこー、可愛いイメージが………ない?もっと丸い、こー」
首を傾げた麻衣に、綾子は笑った。
「最近出てきたばっかの品種よ。黒ダリア、実物は初めて見たわ」
「何か貴婦人って感じ。薔薇とは違う迫力ー」
「見に行く?」
「うん」
麻衣は頷いて、フラワーショップの入っているデパートのガラス扉を引き開けた。
店頭には、デパートの一等地に構えるショップらしく、色とりどりのバラやブーケが、計算され尽くした美しい配置で並べられている。その中に麻衣が見つけた大きな黒ダリアもあって、ひときわ異彩を放っていた。
「うわ。凄い迫力」
「本当ね。………あんたんとこの所長思い出すわ。ダリアとはかけ離れてるけど」
「………あー。確かにあの尖り具合と黒さがそんな感じかも………」
ちからなく苦笑した麻衣は、店員が近寄ってくるのに気付いて口を閉じた。
「お客様、そちらのダリアは初入荷の黒ダリアです。黒蝶、という品種です」
「黒蝶………」
「とてもきれいね。遠くからでも目を引かれたわ」
「ありがとうございます」
若い女性店員は、デパート向けの接客を仕込まれているらしい。
「はじめて見たわ」
「赤やピンクは入ってくるのですが、なかなか黒ダリアは入荷いたしませんので」
「素人には難しいわね、確かに」
そういった綾子に、店員はそのようです、と言って頷いた。
「ですが、存在感がございますので、一輪で引き立ちます」
「私もそう思うわ。………その黒ダリア、一輪貰える?ちょうど、それがぴったりハマるのがいるのよ。ね、麻衣?」
「………あたしに振らないでよ、綾子」
「それは、素敵な男性ですね」
彼女は笑って、ダリアを一本選んで引き抜き、そのままの長さで手際よくラッピングしていく。
それを受け取り、支払いをすませた綾子は、花をぽんと麻衣に渡した。
「綾子?」
「ふさわしいとこに飾るのがいいでしょ」
「…………なにがどーふさわしいの……」
「ダリアの花言葉は華麗、優雅。それに威厳だったかしらね。それに品種が黒蝶。外面だけ見たら見事に似合うわよ?」
「………あたし、それ言うのやだからね。綾子が言ってよね」
「あら、それって一緒に行っていいってことかしら?」
ちなみに今日は休日、麻衣がこれから向かうのは、自宅であるSPR借り切り(貸され切りとも言う)マンションで、今のところはリン以外誰も行ったことがないし、もちろん日本支部の所長である彼の許可なく誰かを連れて行くわけにはいかない。
「……………綾子、それ、確信犯………?」
「当たり前でしょうが。反応だけ教えてね」
綾子はにこりと笑い、時計に目をやった。
「そろそろ時間ね。それじゃね、麻衣。気をつけて帰るのよ」
麻衣の頭をぽんぽんと撫でるようにたたき、綾子は艶やかな笑みを残して踵を返し、颯爽と歩いていく。
取り残された麻衣はダリアを見やり、溜息をついた。
「まあ、あたしに似合わないことだけは確かだよね」
ダリアの花言葉は、優雅、そして華麗。
そう、そしてかの所長は、確かに優雅で華麗なのだ。憎たらしいくらいに。
「結局黒いところが笑えるけどね」
麻衣は呟いて、花を傷つけないように気をつけながら、人波に入っていった。
お詫びというにはアレですが、ちょっとしたSSSを思いつきましたのでどうぞです。
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花言葉は。
「見て、綾子」
一歩先を歩いていた綾子の袖を、麻衣が掴んだ。
「なあに?」
「ほらあの花!」
通路向こうのガラスのウィンドウの先はフラワーショップで、麻衣の指先は、深紅を通り越して黒赤色とでも言える色をさしていた。
無数の花びらはまるでとげのように鋭く、その色のせいで、余計に際立って目立つ。
「ああ、ダリアね。目立つわね」
「あれ、ダリアなの?………なんかダリアって、もっとこー、可愛いイメージが………ない?もっと丸い、こー」
首を傾げた麻衣に、綾子は笑った。
「最近出てきたばっかの品種よ。黒ダリア、実物は初めて見たわ」
「何か貴婦人って感じ。薔薇とは違う迫力ー」
「見に行く?」
「うん」
麻衣は頷いて、フラワーショップの入っているデパートのガラス扉を引き開けた。
店頭には、デパートの一等地に構えるショップらしく、色とりどりのバラやブーケが、計算され尽くした美しい配置で並べられている。その中に麻衣が見つけた大きな黒ダリアもあって、ひときわ異彩を放っていた。
「うわ。凄い迫力」
「本当ね。………あんたんとこの所長思い出すわ。ダリアとはかけ離れてるけど」
「………あー。確かにあの尖り具合と黒さがそんな感じかも………」
ちからなく苦笑した麻衣は、店員が近寄ってくるのに気付いて口を閉じた。
「お客様、そちらのダリアは初入荷の黒ダリアです。黒蝶、という品種です」
「黒蝶………」
「とてもきれいね。遠くからでも目を引かれたわ」
「ありがとうございます」
若い女性店員は、デパート向けの接客を仕込まれているらしい。
「はじめて見たわ」
「赤やピンクは入ってくるのですが、なかなか黒ダリアは入荷いたしませんので」
「素人には難しいわね、確かに」
そういった綾子に、店員はそのようです、と言って頷いた。
「ですが、存在感がございますので、一輪で引き立ちます」
「私もそう思うわ。………その黒ダリア、一輪貰える?ちょうど、それがぴったりハマるのがいるのよ。ね、麻衣?」
「………あたしに振らないでよ、綾子」
「それは、素敵な男性ですね」
彼女は笑って、ダリアを一本選んで引き抜き、そのままの長さで手際よくラッピングしていく。
それを受け取り、支払いをすませた綾子は、花をぽんと麻衣に渡した。
「綾子?」
「ふさわしいとこに飾るのがいいでしょ」
「…………なにがどーふさわしいの……」
「ダリアの花言葉は華麗、優雅。それに威厳だったかしらね。それに品種が黒蝶。外面だけ見たら見事に似合うわよ?」
「………あたし、それ言うのやだからね。綾子が言ってよね」
「あら、それって一緒に行っていいってことかしら?」
ちなみに今日は休日、麻衣がこれから向かうのは、自宅であるSPR借り切り(貸され切りとも言う)マンションで、今のところはリン以外誰も行ったことがないし、もちろん日本支部の所長である彼の許可なく誰かを連れて行くわけにはいかない。
「……………綾子、それ、確信犯………?」
「当たり前でしょうが。反応だけ教えてね」
綾子はにこりと笑い、時計に目をやった。
「そろそろ時間ね。それじゃね、麻衣。気をつけて帰るのよ」
麻衣の頭をぽんぽんと撫でるようにたたき、綾子は艶やかな笑みを残して踵を返し、颯爽と歩いていく。
取り残された麻衣はダリアを見やり、溜息をついた。
「まあ、あたしに似合わないことだけは確かだよね」
ダリアの花言葉は、優雅、そして華麗。
そう、そしてかの所長は、確かに優雅で華麗なのだ。憎たらしいくらいに。
「結局黒いところが笑えるけどね」
麻衣は呟いて、花を傷つけないように気をつけながら、人波に入っていった。
2009-10-05 16:03
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